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デュランタ

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投稿日時
2015-08-28 21:57:34

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千年忍

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海老原夫人とマナ【もうひとつありませんか?6】の挿絵。
海老原祥子が庭いじりしている時、そばにあったのがデュランタの木。
マナのワンコはひまわりの根元で寝転がってました。

◇◇◇◇◇海老原夫人とマナ

 緑の芝生の庭の一角に、赤いレンガで囲ったガーデニングスペースがあった。
 デュランタの紫色の花が差し被るそのスペースには、ランタナ、ルドベキア、サイネリア、夏の日差しの中で黄色やオレンジの花々が咲き誇る。
 よく手入れが行き届いている。
 そこで草花の手入れをしていた海老原祥子はふと息を吐いて、日差し対策の為に深々と被っていたツバの広い帽子の端から、日差しに鮮やかな黄色を輝かせるヒマワリを見上げた。
 ヒマワリの足元に出来た木陰に寝転んでいた真っ白い〝大型犬〟がちらりと祥子の方へ鼻先を向け、
「そろそろ一休みしたらどうだ?」
 喋った。
 帽子の端から優しい面差しの祥子の柔らかな眼差しが大型犬へ向く。
 祥子はふふっと笑い、
「そうねぇ、お茶にしましょうか?」
「日陰で待ってろ、俺が持ってくる。」
 頷いた大型犬が体を起こして立ち上がった途端、大型犬の姿が青く滲んで青い衣の精霊がそこに立った。
 素足で緑の芝生の上を歩きだした途端、家屋の壁伝いに玄関口から迂回してきた松山が庭へ現れ、
「奥様。すみません、玄関で何度かお呼びしたのですが。」
 勝手に庭先まで押し入った非礼をトップの夫人へ詫びる。
 祥子の顔が露骨に残念そうな顔になり、
「あら、お迎えが来てしまったみたいね。」
「気が利かないぞ、松山。」
 マナは無表情に松山へ言葉を投げる。
 上司(の上司)である海老原の命令で〝精霊のお世話係〟を仰せ付かっている松山は、武田家から(武田と喧嘩して)家出しているマナを海老原家へ引き取りに来ただけなのだが・・・。
 マナがあまりに海老原邸で寛いでいるので呆れてしまう。
 松山は言い様も無く、
「・・・・あなたね。」
 言葉を探すが、続かなかった。
 はんっと小馬鹿にしたように鼻で笑ったマナは松山へ軽く片手を上げて制し、
「そこで待て。」
「どっちが犬だか判りませんね。」
 言われた松山の顔が引き攣った。
 ニヤッと笑うマナは、
「おまえも何か飲むか?」
 我が家の如く、言う。
「え?」
 訝しげな顔で松山が訊き返すと、祥子が先に口を開き、
「いいのよ、マナ。松山さんを待たせてしまうわ。」
「遠慮するな。待つのがこの男の仕事だ。」
 マナは祥子へ向かって軽く笑んで見せるのだが、ここで松山が正気に戻って重大な事柄に気が付いた。
「ちょっ!ちょちょちょちょちょ、ちょっと待って!あなた何を普通に奥様と会話してるんですか!」
「なんだ、やっと気が付いたのか?てか、鬱陶しいぞ、おまえ。」
 マナは松山へ舌打ちを投げつける。


◇◇◇


 木陰に置かれた白いガーデンインテリアに腰掛けた祥子はガーデニング用の手袋を外しながら、
「ワンコは男前ね。」
 ご機嫌気味に言う。
 祥子があまりにも平然と言うので松山は面食らってしまった。
 椅子に座る祥子を呆然とみつめたまま、そこに突っ立っていたのだが、ハッと我に返り、
「違和感は無いんですか?」
 訊く。
 祥子は首を傾げ、
「どうして?」
「・・・・彼、何に見えてますか?」

   武田家から預かっているのは体長2mの大型犬

 だった筈なのに、東アジア系のかなり造形のいい若い男が今、祥子の為に飲み物を取りに行った。
 松山がその事を困惑気味に訊ねるので、祥子はくすくすと笑う。
「ああ、彼の事ね。最初は驚いたわよ?」
「どうしてあの姿が?」
「私が植え込みの中へ倒れそうになった時に助けてくれたのよ。」
「犬です(多分)・・・よ?」
「犬だわね。」
 やはり、祥子はさらりと答えてしまう。
 〝あの〟海老原の妻だけの事はある。
「・・・さすが、トップの奥様は感覚が。」
 正直な感想が松山の口から漏れた。
 祥子は微笑んだまま静かに首を振り、
「主人は知ってるのでしょう?普通の犬を預かるわけが無いもの。それは最初から判ってたのよ、あの人は猫好きなんですからね。」
「・・・猫がお好きなんですか。」
「そ、私とは合わないのよ。」
 ふふっと笑う。
 祥子の視界に青い影が見えると、祥子は突っ立った松山へガーデンインテリアのテーブルの向かいの席へ着くように〝どうぞ〟と手で促した。
 松山が浅く会釈して席へつくと、二つのグラスを持ったマナが戻って来たところだった。
 消えたり現れたりせず、ちゃんと自分の足で物を運ぶマナの姿にとてつもない違和感がある。
 松山の顔が露骨に顰められ、思考が読めなくても何を思っているのか表情からだだ漏れになっていた。
 松山のその顔へマナはニヤッと笑って見せただけで何も言わず、祥子へ氷の浮かぶ麦茶のグラスをひとつ差出し、
「祥子。」
「あら、ありがとう。」
 祥子も何の抵抗も無く、受け取る。
 松山の目の前で、武田家から勝手に出て行って海老原家へ転がり込んだマナが海老原夫人を呼び捨てにした。
 相変わらずのマナの好き勝手なマイペースぶりに、とうとう、
「馴れ馴れしいですよ!!!」
 松山の声が大きくなる。
 マナの目がじろりと松山を睨み、
「おまえにはこっちだな。」
 と、手にあった松山の分のお茶の入ったグラスへ一瞬息を吹き掛けて、凍らせた。
 そして、渡す。
 渡されたグラスの中身ががっつり凍ってしまっている様子に、
「あなた、性格悪い。」
 松山は口を尖らせた。
 目の前で展開された不思議現象に目を丸くした祥子はハッとマナを見上げ、きらきらした眼差しで、
「そんなことも出来るのねぇ、面白いわね。」
「俺の本来の姿はこっちだ。」
 マナが答えた途端、祥子の顔が曇る。
「ワンコちゃんは?」
「・・・・・・・・それも、まぁ、俺の姿だな。」
 祥子が露骨にがっかりした顔をしたのでマナも困り気味に答えると、祥子はまたふふっと微笑み、
「そ、よかった。」
 頷いた。
 傍で見ていた松山も、
「それだけですか?」
 祥子の反応に思わず訊く。
 きょとんと松山を見た祥子は、
「そうよ?何かまだ問題かしら?」
「いいえ・・・何も疑問はお持ちにならないのかな、と。」
「ん~・・・、無いわね。いいんじゃないかしら、それで。」
 恐ろしい程に柔軟な思考力だった。
 微かにその様子を笑うマナは、
「松山が来てしまったのでもう帰るんだが、おまえがそれを飲み終るまでどちらの姿がいい?」
 訊く。
 祥子は顔に満面の笑みをたたえ、
「当然、ワンコちゃんでお願いするわ。」
「だよな。わかった、叶える。」
 マナは頷くと、姿を青く滲ませて大型犬になってみせた。


※よくある日常です


◇◇◇◇◇海老原さんと武田さん


 会議の為の移動でエレベーターの中に海老原と二人だけになった途端、室内のしんとした空気を破り、武田が背後に居る海老原へ向かって、
「アレがご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
 振り返る事なく背中越しに詫びる。
 応えて、
「特に害は無い。」
 海老原は言葉を短く切った。
「はい。」
 武田も短く応じて頷き、それだけで会話は終わる。
 そのままエレベーター内は無音になり、目的地へ到着して扉が開いた。
 武田が開けている扉から無言無表情の海老原が出て行くと、武田も無言無表情で後に続く。
 〝アレ〟の今回の家出に関して、海老原と武田が交わした会話は他には無かった。


※よくある日常です




2万文字以内なら、ここに投下しても問題無いの??
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